ここまで読んだか 栞のノブを掴もう

 

title:読書 feat.星野源 / 宮内有里

宮内優里 / 読書 (feat. 星野源) - YouTube

 

綴さん(@penguincawaii)に読書カードを書いていただいたので、夏休みの宿題として読書感想文を提出することにします!(ネタバレを一部含みます)

 

わたしのオーダーは『日曜日の昼下がりのような、温かい優しさとほんのちょっとの寂しさが共存する、みたいなお話』

そんなわがままを受けて選んでくださったのはこの5冊です!

 

 

f:id:n__kgi:20190807224613j:image

 

 


1 かのこちゃんとマドレーヌ夫人 / 万城目学

アカトラのマドレーヌ夫人、かのこちゃんの小学1年生らしいまっすぐな想い、そんなところから淡いオレンジ色みたいな小説だなあと思った。

すずちゃんとかのこちゃんが2人で花火をするシーンは、花火の持つ刹那的な美しさが2人で過ごせる時間の終わりを示していて、とても綺麗だった。

そしてとても気品のある文章だった。ウンコ柱でさえ、なんだかとってもチャーミングに思えた。「マドレーヌ夫人」「玄三郎」「和三盆」といった動物の名前から茶室の場面、かのこちゃんのパパママの立ち振る舞いまで、どれをとっても落ち着いた、しっとりした空気が漂っている。


自分が今いるのと同じ世界線のどこかに本当に存在するような、日常を描いたお話だけれど、猫股のくだり等、所々に夢か現か曖昧なファンタジーの色を帯びている。動物に人間の言葉が通じるなんて人間のエゴだと思っているけれど、そんなファンタジーの色もあって抵抗なく読めた。動物を飼った経験がなくてあまり動物に対して愛着がないわたしだけれど、玄三郎が息をひきとるシーンでは思わずホロリと涙が出た。

 

終わり方に驚いたけれど、あの1文でかのこちゃんがまた1つおとなに成長したこと、かのこちゃんの生活は続いていくことがはっきりと示唆されていて、余韻が心地いいなと思った。きっともう少しおとなになったかのこちゃん、元気にしてるかな。

 


2 あなたがここにいてほしい / 中村航

3つの短編はすごく日常的で、だけどどこか遠く見えた。本はもちろん自分の手元にあるのに、なんだか物理的に遠さを感じたのは何故だろう。

わたしのオーダーの「日曜の昼下がり」感としてお勧めしてくれたのはハミングライフだった。野良猫の餌をやっているときにふと見つけた大きな木のウロ。そのウロに入っていた人為的なメモを見つけたことから秘密の“小さな営み”がはじまる。こんな!トントン拍子に!ことが進むかい!!!!と思いつつ、主人公同様にうまい展開にならないかな~と期待している。そんな夢見る気持ちを裏切られることなく包み込んでくれるのが心地よかった。恋愛でもドロドロしなくて、生々しくなくて、爽やかなのがとても良かった。胸がキュ~っとした。3つのお話の中で一番読みやすかった。


今回の試みもそうだが、わたしは好きな人がお勧めした本をよく読んでいる。好きな人の好きなものを知りたいし、頭の中をのぞき見してしまったような、そんな感覚を味わうのが好きだから。

そんな経緯があるから男子五編の「ある人の愛読書を読むという行為は、その人のことを読むという行為に近い。」という一文にひやっとした。しかも、話の中で出てくるその愛読書というのはJ.DサリンジャーのCatcher in the Ryeだったのだ。まさにCatcher in the Ryeを「一番好きな小説」だと言った加藤シゲアキさんのことを知りたくて手に取ったのが、わたしが好きな人のお勧め本を読む行為を始めたきっかけだ。自分の話かと思った。

人の頭の中をのぞき見しているような感覚が好き、だなんてちょっと変態じみているのかもしれないとこれまで思ってたけれど、案外人はみんな変態なんだなあと思った。

 

 

2.5 Catcher in the Rye / J.Dサリンジャー

せっかく作中に出てきたので再読。あまり同じものを何回も何回も読み返すタイプではないので、再読という経験もまた、はじめてに等しかった。


最近少しバタバタしていて、心の許容範囲が以前に増して狭くなり、片っ端からシャッターを下ろす日々が続いていた。だから身の回りの全てを否定して、イチャモンをつけて回るホールデンが、前回読んだ時よりもっともっと身近に感じた。前に読んだ時は捻くれてるなあって全然共感できなかったけど、今になって共感できるポイントか増えていて、ちょと苦笑いしてしまった。

 

 

3 家守綺譚 / 梨木香歩

一生読み終わらなければいいのに、と思った。

甘い花の香り。心地よい水の音。サルスベリの感触。採りたての筍。読書は視覚からの情報しか得られないはずなのに、これらが本当に香ったり鳴ったり、口の中に味が広がったりするような気がした。


とても静かな物語だった。そもそも絵から亡くなった人間が挨拶しにきたり、あらゆる動物が人の形に化けて出てきたり、あり得ないことの連続なのだが、それを『そういうものなのだろう』と許容して話が進んでいく。主人公のそのドンと構えた姿勢にとても魅力を感じた。Catcher~で述べた通り余裕のないわたしには、真反対の生活をする主人公がとても輝いて見えた。あり得ないこと、分からないことをそのまま受け止めるには心の余裕が必要だと思う。とても羨ましい。

本当は通勤電車でバタバタしながらじゃなくて、ゆっくり休日にお茶でも飲みながらのんびり読めたらよかった。続編の『冬虫夏草』も買ったので、そっちはじっくり読もう。

 

 

4 ロボット・イン・ザ・ガーデン / デボラ・インストール

右も左も分からないタング、自堕落なベン、カリカリしているエイミー。歯車がうまく回らない前半は読んでいるこっちも辛くなってしまうけれど、だからこそ後半で成長したタングとベン、丸くなったエイミーのみんなに愛着が湧いた。みんなとても人間らしいなと思った。

エイミーとの関係を安直に復活させないラストに心を打たれた。グレーも肯定してくれるベンはとても優しい。ハイじゃあ次、元通り、だなんてそんな白黒はっきりつけられる世界じゃないよね。

各所で出会う人たちがみんな小さなしこりを抱えているんだけれど、ベンが絡むことによってそのしこりが少しずつ柔らかくなっていくのを感じた。それによって相乗効果でベンも変わっていくんだけど、ベンはなんだかともし火のような温かい人だなと思った。

アンドロイドが日常になじんでいる近未来の話だから、いまは実現不可能だろうと思いながら読んでいる事象も、もしかしたら可能な世界なのかもしれない。しかし、科学では証明できないことは存在する、とわたしは思う。タングはそういった意味でも「可能性のかたまり」だった。小さい子どものように毎日がキラキラしていて、成長スピードも早い。時に、大人より本質を突いたことを言ったりする。

 ベンにとってはタングだったけれど、その人のために行動を起こしたい!と思えるほどの素敵な伴侶に出会いたいなあなどと思った。

 

 

5 図書館の神様 / 瀬尾まいこ

部活一筋だったのにある時を境にプツンと切れてしまう清に、どこかちゃんとしていないと嫌な清にグッと感情移入した次のシーンで、安易に不倫に手を出す清に本気で怒ったり。話の要素1つ1つに大きく気持ちを揺さぶられた小説だった。

部活動に青春を費やしてきた人間は、なぜかそうでない人間を軽蔑することが多い、と個人的には思う。そうでない人も当然いるんだけれど、少なくとも自分はそのきらいがあった。だから、本を読む人間として、きっと文学部が蔑ろにされる場面で清のように腹を立てるべきなのだろうと思うけど、できなかった。そう思いたいのに、向こう側にいる過去の自分が見えた。

この本の感想をまとめるにあたって、何を書こうとしても全部自分の話になってしまう。上記の感想だって全部自分の話だ。自分が思っている以上にわたしは、自分のことでいっぱいいっぱいなのかもしれない。読むタイミングが違えば、もう少し本の中身について言葉を紡ぐことができたのだろうか。

 

 

自分ではつい好みの作品ばっかり選んでしまうので、好みのジャンルで選書してもらったとは言え、勧められなければきっと一生手に取らなかっただろうな~(知るチャンスがなさそうだったな)と思う本に、作家さんに出会えたのが今回とても面白かった。

 

拙い文章ですが、この夏の宿題おわり!